2022年10月2日
母にとって同居する二人の孫は何にも変え難い宝物でした。
特に姉の夫が海外に単身赴任となり、姉がフルタイムで働きに出でいた10年、母は孫の世話と家事に明け暮れ、幼い2人の孫は高校生へと成長していました。
初孫の慶は、おばあちゃんを「お母さん」と呼び、次男の真は、おばあちゃんの部屋にいつも入り浸っていました。
2人とも、おばあちゃん思いの優しい孫でした。
父の胃がん騒動から1年半が経とうとしていた2016年2月、慶は希望する医大に合格しました。
父と私は姉夫婦の手前お祝いはできないものと思っていましたが、母と慶が姉夫婦に内緒で合格の報告をしに会いに来てくれたのは2月の中頃のことでした。
父はとても喜び、私にとっても久しぶりの明るいニュースに気持ちが和みました。
幼い孫との接点はほとんどなかった父でしたが、家の建て直しから始まった孫との交流におじいちゃんとしての喜びを感じているようでした。
3月30日。
慶が下宿先のアパートへ引越しをする前日。
引越しといっても荷物の搬入はすでに済んでいて、慶が家を出て新生活をスタートさせる日です。
母は下宿先に送りがてら、数日泊まることを慶と約束していました。
母と慶と真。そして東京に住む母の弟の一男さん4人で慶を下宿先へと送っていくことになっていました。
4月から始まる大学生活に不安と期待でいっぱいの慶。
大切に育ててきた慶の新たな門出を喜ぶ母。
この日いつも以上に苛立った姉が、母の旅支度をひっくり返して中身を撒き散らし、母の胸ぐらを掴んで引きづり回していたことなど誰も想像していませんでした。